スーパーマン
2024年10月10日(木)
営業後。
カミサンから「何か届いてるよ」と包みを渡されると、それは本。手紙も添えられており、「10年前、毎日ピザを食べに行っていた者です。出来あがったらとおりみちさんに送ろうと思っていました」。
え
「お忙しいでしょうが、パラパラと見てやってください」。
ちょっちょちょ、ちょっと。
俺はあなたのことを、確かに覚えている。
知り合ったのはこのご病気の後。リハビリから復帰され、本当に毎日毎日通ってくれていた。忘れるわけはない。
お話しさせていただいたのはホンの少しだったけど、それでもその少なかった言葉から迸る高い文化レベル。
「こんな人に出会えるのか」と邑南町に戻った甲斐があったと思わせてくれた人の1人だった。
この山奥の高校から東大と京大への合格者が出てびっくりしていると、「あ、あれは岩野先生がいたからね」やら、「スノーボードは全国レベル、DVDも出てる」などの話を耳にした時は、「なんだ、別世界の人か」と思っていた。
が、実際は「この前、ラジオでメールが読まれた」と、めちゃめちゃコッチの世界でもスーパースターだったり。
ただ、
「先生は亡くなった」
と聞いていたのだ。
本を読んでいくと先生のご病気が「脳動静脈奇形」であったと知る。
脳内の血管内にある瘤が破裂してしまい、カラダが不自由になってしまったとの事だった。
文章はとても先生らしいもので、そのまるで「他人事かよ!」とまで思わせてくれるほどの冷静な語り口が「そう。俺はあなたのそんな雰囲気が好きだった」と思い出させてくれる。
タイトルもサイコーにカッコいいね。
メチャクチャに大変だったはずなのに、淡々と、出来事だけが流れていく内容とぴったりな清々しいタイトル。初めて出版するなら「想い」とか「願い」とか、何か「この本から読み取って欲しい事」を表現しそうなところなのに、
『手術・入院・リハビリ・退院・通院・その後』って、あまりに渋いわ。
そこらの凡人ならもっと「未来に向けた」的なタイトルや、せめて『手術、入院、リハビリ、退院、通院。そしてその後』みたいに句読点で味付けしたくなるはずよ?
やっぱ、カッコいい人だったんだな。
そして後半になるとようやく「亡くなった」と聞いていた話の謎が解ける。そうか、そんな別の不幸があったのか…。
一冊の本を書き上げるというのは相当の困難が、特に先生の場合、プロットは出来上がっても、文字に起こすというのは想像も及ばないご苦労があっただろうに、一気に最後まで読んでしまった。
実は俺にも脳内の血管に瘤があるのだが、群発頭痛という病気のおかげで年イチ程度でMRIで経過観察をしてもらっている。
せっかく先生が「早めに診てもらっておいたら?」と書いてくれているし、今後も定期検診には行っておこうと思う。
今日は「職業体験」という事で、地元の中学校からAちゃんというこれまた素晴らしい若者がウチのお店にやってきてくれた。
だが、これが岩野先生との出会いと同じくとてもイイ、「喫茶とおりみち物語」の1ページとなった。
そろそろハイボールも飲り過ぎたし、Aちゃんとのお話はまた明日。
本か。
毎日毎日、カミサンが言うところの「デタラメばっかり書いて!」と叱られているこの駄文だが、もう10年以上は垂れ流している。
もしかして、俺もいつか何か残せるようなことがあるのだろうか。
添えられていたお手紙には、「『とおりみち』という店名も出していたのですが、『固有名詞はできるだけ消すように』と指導が入りまして、喫茶店にしました」と書かれていた。
なるほど。
つまり逆に、その辺をぼやかせばなんでも書いてイイわけか(イイわけない)。
人生の思い出に、俺も何か「形」にしてみるのも面白そうだな。
でも俺の場合、句読点やらその他色々で「味付け」してカッコ悪い文章になってしまいそうだな〜